仮面ライダーWの続編にあたる漫画『風都探偵』は6巻でビギンズナイト編に突入した。
5巻まではTVシリーズ最終話後のオリジナルストーリーが描かれてきたわけたが、ここにきて過去に劇場版『仮面ライダー×仮面ライダー W&ディケイド MOVIE大戦2010』で語られた内容の焼き直しのような展開に突入したということだ。
なぜ今更ビギンズナイトなのだろう?という疑問は当然のように湧いたわけだが、いざ読んでみるとこの焼き直しによる“始まりの夜”の補完が素晴らしい。
少年達をメイン視聴者に据えて作られるべき仮面ライダー作品に対して、整合性や論理性を求めすぎそうになった際、いかんいかんと自制するように心がけているのだが、ここまで作品の方からストーリーに空いた穴を埋めるために歩み寄ってくれるのは非常に爽快だ。
本記事では、この補完部分についての考察・感想を記してみようと思う。
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目次
『風都探偵 6巻』におけるビギンズナイトの補完
風都探偵のビギンズナイト編は前半が翔太郎、後半はフィリップが語り手となり、新しい鳴海探偵事務所の仲間である『ときめ』が聞き手となる構成で話が進む。欠けていたピースが埋まっていく事であの日の出来事の靄が晴れていく。
不良として荒れていた翔太郎が探偵の助手になるまで
風都探偵でのビギンズナイトの回想は、オーズと共演したMOVIE大戦COREでも少し描かれている幼少期の翔太郎と鳴海壮吉の出会いに始まる。
スカルが登場した2つの劇場版の内容が時系列順に整理され、その間にある助手への志願と拒否、荒れた高校時代、助手として認めるまでの出来事が補完されることで、翔太朗と鳴海壮吉の関係性がより一層分厚い物に仕上がっている。
更に、交番勤務時代の刃さんとかメリッサとか真里奈とかも忘れずに登場させる気遣いがオタク的アゲ要素。
破損していたロストドライバー
“おやっさん”こと鳴海壮吉は、ビルからの脱出直前に背後から撃たれた。危険なのはわかってんだから事前に変身しよけよ!と超野暮なツッコミをした悪い子はいねぇが(ブーメラン)。
実際スカルに変身してさえいれば命を落とすことはなかっただろうが、実はこの時変身していなかったのには理由があった。
鳴海壮吉は、直前の対タブー・ドーパント(園崎冴子)戦でベルトを破損していたのだ。ロストドライバーはこの時点で使い物にならなくなっており、その後は生身でフィリップを救出するしかなかった。
また、園崎冴子もこの戦いで変身解除まで追い込まれ、ガイアドライバーの安全(制御)装置によりすぐに再変身して追いかけらることができなかった、ということも描かれている。
たまたま銃で撃たれた時だけ変身してない…というキャラ死亡展開にありがちなご都合主義をきっちりストーリーで否定してくれているのが非常に気持ち良い。
ロストドライバーという名称の由来
『ロスト=失われた』という意味から、ロストドライバーはダブルドライバーのスロットが一つ失われたドライバーであり、ダブルドライバーありきのネーミングなのかな?と思っていた時期が私にもありました。
どうやらこれは間違いらしい。ロストドライバーの名前の由来が読み取れるコマがあった。
園崎冴子「組織から設計図ごと“消失”した、新型メモリのドライバー………!」
『風都探偵 (6)』P95より引用
劇場版での元のセリフは「ロストドライバー?なぜお前が!?」だったわけだが、このセリフに変更になったことで“ロスト”が『ミュージアムが失った』という意味だとはっきりした。
更には開発順序が、ガイアドライバー→ロストドライバー(作ったけど名前もついてない段階で盗まれた!)→ダブルドライバー(シュラウドの最新作!)だったというところまで読み取れる。
これを一コマの一つのルビで説明しちゃうのがスマート。
冴子の大失態に対する園崎家の反応
冴子姉さん…フィリップを逃がしてしまうなんて大失態やんけ!とは劇場版の視聴時からずっと思っていたわけだが、その大失態に対して若菜姫がほくそ笑んだり、お父様が厳しい表情を見せたり、と園崎家の面々の反応が描かれている。
そうそうこれこれ。若菜姫、ちゃっかりヒロイン枠に収まっている場合じゃないぞ!この家族はこうでなくっちゃ。
最初にフィリップの相棒に予定されていたのは鳴海荘吉だった
TVシリーズ本編では、本来のフィリップの相棒が翔太郎ではなく照井竜を予定していたことが語られている。
しかし風都探偵ではそれ以前に、鳴海壮吉とフィリップによるダブルが考えられていたことが明かされた。だからこそシュラウドは二人の接触を狙い、鳴海壮吉にフィリップの救出を依頼していたのだ。
サイクロンアクセルどころか、サイクロンスカルが考えられていたという裏設定はワクワクすることこの上ない。シュラウドさん…あんた「オタクくんさぁ、こういうの好きなんでしょ?」構文のツボを押さえすぎだろ。好きです、はい。
もちろんサイクロンスカルが誕生することはなかったのだが、その後に偶然誕生したのが翔太朗とのサイクロンジョーカーだからこそミュージアムにも勝てた、というところまで言及されているのが更なる個人的加点要素になっている。
最後に
これらの補完により仮面ライダーWの世界、とりわけスカルに関する世界観がより一層強固な物になっている。うーん素晴らしい。
仮面ライダーの劇場版はお子様の視聴が大前提にあり、あまり長時間の作品にはできない。そんな時間の制限から解放された漫画版だからこそ、細かい描写まで存分に描けるのだろう。
風都探偵は、仮面ライダーWの世界観を壊すことなくコミカライズして引き継ぎ、正当な続編としてファンの方も違和感なく読める作品です。ビギンズナイト編以外も面白いので、まだ読んでいないWファンの方はぜひご覧になってみて下さい。
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